与那国語の動詞1:概観

与那国語の動詞の活用は、数ある日本語族の言語の中でも恐らく最も複雑だと言われています。なので、ここを身につけることが最大の正念場であると言えます。与那国語を学習するにあたって、常に付きまとってくるのが動詞活用です。

以下、山田真寛「ドゥナン(与那国)語の動詞形態論」(田窪行則他編『琉球諸語と古代日本語』くろしお出版)に基づいて説明します。

まず標準語には、五段活用・上一段活用・下一段活用の三つの規則活用と、「する」「来る」という二つの不規則活用があります。対して与那国語では16種類の規則活用と、「ある」「いる」「知る」「やる」「来る」「入る」という六つの不規則活用があります。(「する」は与那国語では規則活用です)

当該論文では、「接辞の種類を極力減らす」方針で活用表を組み立てています。接辞というのは「読ませる」「言われる」「行った」等の場合、「せる」「れる」「た」にあたる部分のことです。その変わり、語幹の種類が増えることになります。例を見てみるのが早いでしょう。

最も語幹の数が多いタイプの動詞としてubuirun(覚える)があります。この動詞は以下のように4種類の語幹を持ちます。

ubw-amirun 覚えさせる

ubuir-un 覚える

ubui-tan 覚えた

ubu-i 覚えて

つまり、ubw-, ubuir-, ubui-, ubu-という4つの語幹を持ち、どの接辞に対してどの語幹を使うかが決まっているのです。

そして接辞の方も、一つとは限りません。使役(させる)はmiramir、非過去形はuもしくは無標、過去形はtaita、連体形はruもしくは無標、状況形(すれば)はbaiba、禁止はnnaunnaがあります。最も厄介なのは完了形で、a,ya,u,yuの4通りが現れます。完了形では、主語が動作主ならばa,yaが、そうでなければu,yuが現れることがほとんどであるとされますが、yが挟まるかどうかは恣意的です。

 

ここで重要なのは、語幹と接辞の区別は、あくまでも説明の労力(組合せ)が最小になるように人為的に設定しているだけだということです。結局のところ学習者は、どの動詞が16種類のうちどの活用パターンに属し、その活用パターンではどの活用形にはどの語幹とどの助詞を使うのか、全部覚えていなければいけないというのが、現在の説明の限界です。そういうわけで、与那国語の動詞活用は他の日本語族言語/方言に比べて複雑だ、と言われるのです。