与那国語の動詞9:過去、中止(1)

今回は活用表の9つ目と10個目、過去形と中止形です。

中止形は書くことが多いので、複数回に分けます。

・過去 ~した

接辞はC/YA~K/U(Cグループ)に対して-ita, それ以外に対して-taを使います。

duyu=nu hana(=ŋa) sat-ita-n.

ユリの花(が)咲いた。

*咲く sagun K/YU

*自動詞文で動作主性が低い場合、主格の助詞=ŋaを取らないことがあるようです。

khanu agami=ya araagu hudu-ta-n.

あの子はとても成長した。

*成長する hudurun UR/U

 

以前に説明したことと一部重なりますが、使役、受身、否定、状況、条件の過去形も見ておきましょう。動詞はndun「言う:C/YA」を使います。

使役:nd-amir-u-n.⇒nd-ami-ta-n.

言わせる⇒言わせた

受身:nd-arir-u-n.⇒nd-ari-ta-n.

言われる⇒言われた

否定:nd-anu-n.⇒nd-anu-ta-n.

言わない⇒言わなかった

条件:nd-ya,⇒nd-ta-ya,

言えば(?)⇒言ったので(?)

状況:nd-u-ba,⇒nd-u-ta-ba

言えば(?)⇒言ったので(?)

 

・中止形 ~して/~した

琉球諸語では、中止形(「~して」)で文を言い切ることがあります。与那国語もそうです。

が、まずは接続用法から見ていきましょう。

<turasun:取らす>

dum-i turas-i.

読んでください。

*読む dumun C/YA

*turasunはAS/YA活用で「取らす」の意味、つまり「くれる/あげる」にあたり、「くれる」「あげる」の区別はありません。つまり"dum-i turas-u-n."は「読んでくれる」「読んであげる」のどちらにも使えます。

 

<ccun:できる>

di dum-i ccun.

字(を)読める。

*ccunは可能を表す補助動詞です。意味は「能力可能」です。技能があるのでできる、という場合に使います。受身の-arir-は可能の意味にもなりますが、これは「状況可能」といって、状況が許すのでできるという意味です。ピアノが上手い人を考えましょう。

khari=ŋa Piano tt-i ccu-n.

彼はピアノ(を)弾ける。「能力」

duru=ni=ya Piano kk-arir-anu-n.

夜にはピアノ(を)弾けない。「状況」

*kkun 弾く K/YA

 

*「着る」「切る」のccun(C/YA活用)と同形なので、例文の直訳は「字、読みきる」となるでしょう。大阪方言で「~しきる」というと(微妙な意味の違いはありますが)可能を表す表現の一種です。「よう見きらん」は「(見るのが怖いなどの理由で最後まで)見ることができない」のような意味でしょうか。「そんなこと言い切れる?」の「きれる」もこれかもしれません。

補助動詞ですから、C/YA活用に沿って活用させられます。

di dum-i cc-anu-n.

字を読めない。

di dum-i cc-ita-n.

字を読めた。

 

中途半端な所ですが、今回はここまでです。