2019-01-01から1年間の記事一覧

与那国語の動詞13:完了(2)

ここでは完了の否定を扱います。完了否定では完了の接辞は使われず、存在動詞anの否定形minun(つまり「無い」)が使われます。本動詞の方は中止形です。 madi tudut-i minu-n. まだ届いて無い。 まだ届いていない。 *tudugun 届く K/U 対して、完了の肯定形…

与那国語の動詞12:完了(1)

動詞の基本の最後は、活用表の一番下に載っている完了形です。日流語族の中には過去形と完了形の違いがはっきりしているものもありますが、与那国語に関してはまだよくわかっていないようです。 また与那国語の完了接辞は-(y)a-, -(y)u-の4種類あり、概ね-(y…

与那国語メモ:「てしまった」のminun

動詞中止形に続くminunは、存在の否定という意味を離れ、「起こった行為に対する話し手の期待はずれ」を表すという。それなら標準語の感覚に近いだろう。 子供の壁の落書きを見て、 kati minun suyaa. 書いてしまった(様子だ)なぁ。 書いちゃったなぁ。 *と…

与那国語の動詞11:中止(3)

中止形の続きです。 <datana:しながら> ttuhaŋka kh-i-datana bara-ta-n. 恥ずかしがりながら笑った。 *恥ずかしがる ttuhaŋka khirun.(恥ずかしさする) *笑う barun A/A <nki:せずに/しないで> これは「否定継起」と呼ばれるもので、「~して」の「…

与那国語の動詞10:中止(2)

前回に引き続き、中止形を用いて作る表現の解説です。 <minun:ない> A:maa dum-ya-n? B:madi dum-i minu-n. もう読んだ?(完了形)―まだ読んでない。 単に「読まない」であれば、dum-anu-n.とするところですし、現在進行の「読んでいる」はdum-i bu-n.です…

与那国語の動詞9:過去、中止(1)

今回は活用表の9つ目と10個目、過去形と中止形です。 中止形は書くことが多いので、複数回に分けます。 ・過去 ~した 接辞はC/YA~K/U(Cグループ)に対して-ita, それ以外に対して-taを使います。 duyu=nu hana(=ŋa) sat-ita-n. ユリの花(が)咲いた。 *咲く …

与那国語の動詞8:状況、禁止

活用表の7つ目と8つ目、状況と禁止を説明します。 ・状況 ~すれば 接辞はC/YA~UIR/WA(子音語幹)に対して-ba, A/A~US/YA(母音語幹)に対して-ibaを取ります。 以前も書いた通り条件形との違いがいまいちよくわからない(語形は明らかに違うのですが)ので、実際…

与那国語の動詞7:直説、命令

今回は活用表の5つ目と6つ目の直説形と命令形を解説します。 ・直説 ~する 最も基本的な形で、終止形にあたると言えます。しかし、このような基本的な形ほど、どのような守備範囲を持っているのかややこしいことがままあります。幸いにも私が調べた限りでは…

与那国語の動詞6:受身、条件

前回に引き続き、動詞接辞を説明していきます。今回は活用表の3つ目と4つ目、受身と条件です。 ・受身 される 受身形の接辞は-arir-しかありません。「~に」の部分には助詞=niまたは=nkiを使います。 khanu agami=ya sinsi=nki iccin humir-arir-u-n. あの…

与那国語の動詞5:使役、否定

以前提示した活用表では、規則活用に11の活用形、不規則活用に連体形を加えた12の活用形が示してありますので、今回は最初の2つ、使役と否定を紹介します。 なお活用表ではクラスがC/YA, K/YA, ŋ/YA, K/U, AR/A, UR/U, UR/WA, IR/U, IR/YA, IR/YU, UIR/…

与那国語の動詞4:活用判断のまとめ

第2回と第3回のまとめとして、以下の判断表を提示しておきます。 与那国語動詞活用判断 こうしてみると、母音グループの判断も完了形語幹末にsが含まれるかどうかを見ずとも判断できることがわかりますね。命令形がaなら完了接辞がaかyaかを見ればよく、命…

与那国語の動詞3:活用パターンとその見分け方(2)

・活用パターンの判断:完了形から 完了形に使われる接辞(完了接辞)はa, ya, u, yuの4種類あり、a系かu系かは動詞の意味によって概ね決まります。命令形だけでは活用パターンを決めきれない場合、完了形も知っておかなければ活用パターンを特定できません。 …

与那国語の動詞2:活用パターンとその見分け方(1)

では、活用パターンの分類を紹介し、ある動詞がどの活用パターンに属するのか見分ける方法を説明します。 与那国語の動詞活用表は、前回の記事に紹介した論文に載っていますが、以下のpdfの最後のページにもくっついていますので、参考にしてください。 http…

与那国語の動詞1:概観

与那国語の動詞の活用は、数ある日本語族の言語の中でも恐らく最も複雑だと言われています。なので、ここを身につけることが最大の正念場であると言えます。与那国語を学習するにあたって、常に付きまとってくるのが動詞活用です。 以下、山田真寛「ドゥナン…

与那国語の形容詞3:他の語形

形容詞thagan(高い)、dinan(汚い)を例に、その他の語形を見ていきます。 ・感嘆 ~だなぁ! 語根に-anuを付けます。が、語根のaと重なるので、例によって一音になります。 thaga-nu. 高いなあ! dina-nu. 汚いなあ! ・状況、条件 ~ならば、~ので、~(し)…

与那国語の形容詞2:連体形

さて、形容詞の続きは、連体形の話をしましょう。連体形は、「体言(名詞)に連なる」ですから、名詞に付くときに使う形です。標準語では「あの人は速い」(終止形)も「速い人」(連体形)も同じ「速い」ですが、与那国語では両者で違う語形になります。多分、琉…

与那国語の形容詞1

琉球諸語全般にそうだと思いますが、与那国語の形容詞も語根に「ある」を意味するanがついてできています。なので、その活用は不規則動詞anの活用に準じます。後に説明する動詞の活用は複雑の極みですが、形容詞はその由来から活用が1パターンしかなく、単純…

与那国語メモ:奪格と出格

奪格=garaと出格=diに関するメモ。=diの用例が手元にないので困っています。 フィンランド語では両方あるらしいので参考程度に調べてみる。 フィンランド語には6つの場所格があり、「位置・起点・目標」と「内部・外部」の組み合わせで成り立っている。 位置…

与那国語のローマ字表記について

これは雑記です。 与那国語の場合、特に強子音/喉頭化音と鼻濁音の扱いが問題になると思う。そこで、とりあえず先行研究でどのような表記が使われているかまとめてみる。参考文献は記事の一番下に書いてます。 ・田窪編2013 最終章の簡易文法より 喉頭化音の…

与那国語の格助詞・付属語2

・=si で(道具、手段) 道具や手段、あるいは材料などを表します。 khunu mi=si nnun. この目で見る。 ・=n, =bagin も anu=n hirun. 私も行く。 anu=bagin hirun. 私も行く。 ・=ta まで Osaka=ta hirun. 大阪まで行く。 ・=ka よりも Unna=nu naci=ka acan.…

与那国語の格助詞・付属語1

いわゆる「てにをは」の類です。=yaのように前に=を付けて表しますが、これはyaが名詞などの後ろに付くという意味です。 *助詞を太字で表記していますが、アクセントの表示ではありません。 ・=ya は これは「主題」と呼ばれるもので、主語とは異なります。…

与那国語の数詞と類別詞

・数詞 1 ttu 2 tta 3 mi 4 du 5 ici 6 mu 7 nana 8 da 9 khugunu 10 thu *1は「ひと」ですが頭の「ひ」が抜け、代償として「と」が強子音となります。与那国語では「オ」母音は「ウ」母音に基本的に対応するため「ttu っとぅ」となります。2は「ふた」です…

与那国語の代名詞3:不規則変化、疑問詞

・一部の代名詞の不規則語形 「私」「私たち」に主格「ŋ:が」と属格「nu:の」が付くと、以下のような形になります。 anu ⇒ aŋa 私が/私の *この場合、「私の」は"anunu"という形にはならないようです。日本語にも「我が国」「我が家」など「が」で「の」…

与那国語の代名詞2:指示代名詞、連体詞、再帰代名詞、場所代名詞

ところどころアクセントに言及していない単語がありますが、それは筆者がアクセントを確認できていない語です。ご了承ください。 ・指示代名詞 khu(高型)これ khuntati これら u(高型)それ untati(低型)それら khari(高型)あれ khantati(低型)あれら *khari…

与那国語の代名詞1:人称代名詞

代名詞のうち、私、あなた、彼/彼女などにあたる言葉、人称代名詞を紹介します。 ・一人称 私:anu(下降型) 私たち(除外形):banu(下降型)/banunta(下降型) 私たち(包括形):banta(下降型) ここで、除外形と包括形について説明します。除外形は「聞き手を含…

与那国語の発音5:音調(アクセント)

この記事を読むにあたって、前の記事「与那国語の発音4」にて日本語におけるアクセントとモーラ・音節に関するごく基本的なことを解説しています。 ・与那国語のアクセントは3種類 まず、与那国語は基本的には音節で単語数を数える方言だといえると思います…

与那国語の発音4:音調(アクセント)のための予備知識

まずこのページでは、アクセントとモーラ・音節について説明します。もう知ってるよという方は、「与那国語の発音5:音調(アクセント)」に進んでください。 ・アクセント 標準語には俗に「イントネーション」と呼ばれているものがあります。「関東と関西で…

与那国語の発音3:半母音

標準語でもka「か」にyを挟んでkya「きゃ」とか、wを挟んでkwa「くぁ」のような音を作ることができますが、与那国語でも同じことができます。基本は標準語と同じですので、注意すべき発音だけ書いておきます。 ・hya, hyu hwa ひゃ、ひゅ、ふぁ。「ひゃ」「…

与那国語の発音2:子音

与那国語の子音の発音はだいたい標準語と同じなのですが、少し違っている部分や注意しなければならない部分があります。 *このサイトでは極力、ローマ字表記(かな表記)の形を取るようにします。それは、特に動詞の活用の話をするときに便利だからです。 ・…

与那国語の発音1:母音

・与那国語の3母音 標準語には「あいうえお」という5つの母音がありますが、与那国語には「あいう」の3つしかありません。「え」「お」は語尾や強調して言うときにしか使われません。 例えば 「酒」はsagi(さぎ)と言い、 「酒だよ~!」という時に Sagei! …